鎌倉観光が変わる!?~エリアプライシングの社会実験とは~|トピックス

2017年9月7日、国土交通省は

「ICT・AI を活用したエリア観光渋滞対策の実験・実装を図る『観光交通イノベーション地域』を選定」

と発表しました。

これは、自家用車の流入による観光地の渋滞を解消するために、ICT(information and communication technology:情報通信技術)・AI (artificial intelligence:人工知能)等の革新的な技術を活用して、エリアプライシング(交通渋滞や大気汚染などの交通問題の改善を目的に、一定の区域内を走行する自動車に課金をするもの)を含む交通需要制御などのエリア観光渋滞対策に取り組んでいくために、

(1)ICT による人や車の動向把握等の実証実験に着手するエリア観光渋滞対策の実験の実施地域として、鎌倉市と京都市

(2)今後の取組方針や実験計画等の更なる具体化に向けて検討を行う地域として、軽井沢町と神戸市

が選定され、今後、各地域において観光渋滞解消のための実証実験や新たな対策の検討が行われていくというものです。

今回、鎌倉市が選定された理由としては、国土交通省による取り組みに先行して市が独自に検討・実施を進めてきた交通対策における実績と、今後の方向性が評価された結果によります。

では、鎌倉市が今後、実施する観光渋滞対策とはどのようなものか、そして、鎌倉観光にどのような影響を与えるのでしょうか?公表されている資料をもとに考えてみます。

1.鎌倉市による課題の整理と今後の取り組み

鎌倉市ではかねてより、交通渋滞の解消のために1996年の鎌倉地域交通計画研究会による「鎌倉地域の地区交通計画に関する提言」に基づき、パークアンドライドや鎌倉フリー環境手形等を実施してきていますが、「目に見えた交通渋滞の解消には至っていない」としています。

さらには、2020年の「東京オリンピック・パラリンピックの開催に伴い、多くの来訪者が鎌倉地域を訪れることが予測され、自動車利用の抑制や公共交通への転換を促し、交通渋滞の解消を図ることが必要となる」、という問題意識から2012年に「鎌倉市交通計画検討委員会」という諮問機関を発足させて、2017年に同委員会による「鎌倉地域の地区交通計画策定に向けた中間とりまとめ」という報告書を公表しました。

「中間とりまとめ」では、交通渋滞の現状と課題について、以下のように整理しています。

【「中間とりまとめ」における鎌倉市の交通渋滞の現状と課題】

●鎌倉市の延入込観光客数は、近年増加傾向を示しています。
●中世の道路形態を継承した鎌倉地域の道路網は、観光バスのすれ違いが困難な区間や歩行空間が十分に確保されていない道路等が存在し、多くの交差点では
右左折交通が滞留する付加車線を持たないなど、道路整備の課題は平成8 年と変わっていません。
●広域幹線道路である首都圏中央連絡自動車道が整備されることで、自動車の利便性が飛躍的に高まることから、鎌倉地域への来訪車両の増加が予測されます。
●パークアンドライドや鎌倉フリー環境手形の利用者数は増加傾向にあります。
●鎌倉地域は、3 連休や正月の参拝時期等に過度な流入交通が集中すると、交通渋滞が慢性的かつ広範囲に発生し、その沿線地域では日常生活の「移動の自由」が奪われ、市民生活に悪影響を及ぼしています。
平成24 年度に行った市民アンケート調査では、交通渋滞の対策が必要と感じている市民が約8 割であり、交通渋滞の解消は喫緊の課題となっています。

つまり、これまでに実施してきた対策では課題解消につながっておらず、さらなる改善策の実施が必要ということになります。

そして今後の取り組みとして、以下の3点が新たな施策として提言されています。

(1)パークアンドライド(民間駐車場の活用)

現在運用している4箇所のパークアンドライド用駐車場(七里ヶ浜、稲村ヶ崎、江の島、由比ガ浜)は全て海浜部であり、夏期については運用していないなどの課題があることから、大船駅周辺等における民間駐車場の有効活用について検討する

(2)新規循環バス「スーバ」の運行

県道金沢鎌倉線沿線において、社会実験を実施している新規循環バス「スーバ」の本格運行に向けての課題である、路線バスの再編等について検討する

(3)(仮称)鎌倉ロードプライシングの課金収入による地域公共交通の輸送力の増強

(仮称)鎌倉ロードプライシングが実施された場合、公共交通の利用者の増加が予想されることから、自動車の代替交通手段の輸送力の増強等について検討する

上記の(3)が国土交通省のいう「エリアプライシング」の社会実験に相当します。では、具体的に、どのうように実施していくのでしょうか。

2.鎌倉ロードプライシングとは

鎌倉ロードプライシングとは、「鎌倉地域に流入する車両に対し、料金を課すことで、自動車利用を控え公共交通への転換を促し、状況に応じて自動車と公共交通が選択できる自動車利用の抑制を図る施策」と定義されており、具体的には以下のような取り組みが実施される予定となっています。

【鎌倉ロードプライシングの具体的取り組みとイメージ】

● 公共交通への転換をより進めるため、課金の一部を課金された人が次回公共交通を利用して鎌倉に来訪した際に運賃を割引く仕組み
● 課金の徴収時に交通渋滞が発生しないようスムーズな流入を確保するため、ETC 等の自動徴収の仕組み
● 道路利用の公平性や利用の頻度を踏まえ、事前登録により市民と来訪者等を認識・区別するため仕組み
●課金の一部を道路整備や商業・観光振興等に充てる方策

鎌倉ロードプライシングのイメージ

3.鎌倉観光に与える影響

では、鎌倉ロードプライシングが実証実験を経て正式に導入された場合、鎌倉観光にどのような影響を与えることが考えられるでしょうか。

まず1つ目は、簡易な移動手段のニーズが拡大することです。

代表的なものはレンタサイクルですが、鎌倉の場合、人力車の利用ニーズが増えることも考えられます。観光スポット間の移動に際して、「徒歩ではきついが、公共交通機関をいちいち利用するのも面倒」といったニーズに応える移動手段を提供することが観光の利便性を高めることになります。

2つ目は、観光にかける時間が増え、より多くのスポットに注目が行くことです。

これまで自家用車で観光に来ていた人が、渋滞に巻き込まれて無駄にしていた時間が削減され、より多くの時間を観光に充てることができるようになります。

そうすると、今まで訪れることが少なかった観光スポットに足を運ぶ機会も増え、新たな観光名所が誕生する可能性も考えられます。

3つ目は、観光&ウォーキングへの注目が高まります。

例えば、鎌倉駅から江ノ島駅まで徒歩で移動した場合の所要時間は30分ほどと、鎌倉・湘南エリアの観光地は、他の観光地と比較して狭いエリアに主要な観光スポットが集中しているという地理的特徴があります。

近年、健康増進の点からも注目されているウォーキングをしながら、鎌倉大仏や稲村ヶ崎、江の島といった観光スポットを巡っても2,3時間程度の所要時間で済ませることができるのです。

観光と健康の一石二鳥の効果がある観光&ウォーキングに、これまで以上の注目が集まりそうです。

4.観光&ウォーキングの魅力向上を目指して

本ブログでは、鎌倉ロードプライシングの動向に注目しながら、引き続き湘南・鎌倉地域の観光&ウォーキングの魅力向上のための情報発信をしてきたいと思います。

公共交通機関を上手く利用しながら、有名・無名の観光スポットを堪能でき、健康にもつながるウォーキングコースをご紹介していきます。

今後も注目いただきますよう、よろしくお願いいたします。

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